武道館の壇上に立った菅義偉の姿には、従来の官僚的で硬質な政治家の面影はなかった。手元の原稿を見つめつつも、時に視線を遠くへ投げかけ、亡き友へ直接話しかけるような独特の間(ま)と声の震え。そこにあったのは、作り込まれたパフォーマンスではなく、剥き出しの哀傷だった。
政治的な立ち位置やイデオロギーを超えて多くの視聴者が涙した理由は、言葉の端々に滲み出る「圧倒的な肉声感」にある。飾らない武骨な語り口だからこそ、長年連添った相棒を突然失った男の喪失感が、ダイレクトに聞き手の胸へと刺さったのだ。演説のプロが計算し尽くしたスピーチ原稿とは異なる、心の底から溢れ出た感情の波がそこには存在していた。