日本画の猫を語る上で、奥村土牛の描く作品群も外せません。土牛の猫は、栖鳳のような劇的な緊張感とは対照的に、どこか穏やかで温かみのある佇まいが特徴です。薄い絵の具を何十回も塗り重ねる独自の「重層的な彩色」によって、猫のふっくらとした肉付きや穏やかな空気感を画面に定着させました。
ほかにも小林古径や前田青邨など、近代の有名画家たちがそれぞれの美意識を猫に投影しています。ある画家は冷徹なまでの線描で猫の気高さを描き、またある画家は大胆なデフォルメで猫特有のユーモアを引き出しました。対象をありのままに捉えつつ、画家の内面世界を重ね合わせることができる点こそ、日本画における猫描写の真髄といえます。