家庭料理の現場やネット上のコミュニティ(SNSやQ&Aサイト)において、「アジの三枚おろしに挑戦したものの、刺身にできないほど身が崩れた」という相談は年間を通じて極めて多く見られます。魚匠や調理師学校の現場指導員への取材・現場検証から浮き彫りになった、初心者が陥る決定的な失敗理由は主に3つに集約されます。
第1の理由は、「包丁を前後に細かくギコギコと動かすノコギリ挽き」です。アジの筋肉組織(筋節)は非常に繊細で、細かく刃を前後させると筋繊維が断裂し、内部からドリップとともに旨味が流出して身が割れます。包丁は「刃元から刃先まで全体を長く使い、一方向に滑らせて切る」のが鉄則です。
第2の理由は、「背骨と中骨の立体構造を意識せず、刃先が骨から浮いてしまうこと」です。骨に身を残すまいと焦るあまり、刃先を深く入れすぎて中骨を断ち切ってしまったり、逆に刃先が浮いて身の中腹を削いでしまったりします。「包丁の平を骨に当て、カリカリと骨の感触を刃先で感じながら滑らせる」感覚を掴むことがブレを防ぐ最短ルートです。
第3の理由は、「まな板や魚体表面の水分・ヌメリをこまめに拭き取らないこと」です。魚が滑ることで手元が狂い、無駄な握力が入って身を押し潰してしまいます。魚を捌くプロの厨房では、包丁を入れるごとにペーパータオルでまな板と魚の水分を拭う作業が徹底されています。