音楽史に詳しい読者の間では、しばしば「Body and Soul」というタイトルが持つ別の歴史的重みが話題に上ります。1930年にジョニー・グリーンが作曲し、エドワード・ヘイマンらが作詞したジャズの歴史的スタンダードナンバー「Body and Soul(身も心も)」の存在です。
ルイ・アームストロングやコールマン・ホーキンス、ビリー・ホリデイ、エラ・フィッツジェラルドなど、ジャズ界の巨匠たちが歌い継いできたこの名曲の歌詞は、SPEEDの楽曲とは対極に位置する世界観を持っています。
ジャズのスタンダード曲における歌詞は、「愛する人に振り向いてもらえず、心も体も相手の虜になって身悶えする女性の哀切」を描いたものです。「My heart is sad and lonely(私の心は悲しく孤独)」「I'm all for you, body and soul(私の身も心もすべてあなたに捧げている)」と歌われるように、恋愛における絶対的な従属と受動的な苦悩がテーマとなっています。
これに対し、SPEEDの「Body & Soul」は、タイトルこそ同名を冠しているものの、思想的には完全に逆転しています。他者に身を委ねるのではなく、「自分自身の肉体と魂を自分自身のために目覚めさせる」という、極めてプロアクティブで自立的なメッセージへと昇華されています。昭和歌謡から平成のJ-POPへと移行する過渡期において、受動的な女性像から能動的な自己表現へとパラダイムシフトが起きていた事実を、この2曲の思想的コントラストは鮮やかに物語っています。