物語のクライマックスにおいて、蘭花は茂実との過去を乗り越え、自分を心から愛してくれる誠実な男性との婚約を果たします。普通の友人関係であれば、手放しで祝福すべき喜ばしい出来事です。しかし、この婚約こそが、留利絵の狂気の引き金を完全に引くことになります。
留利絵にとって、蘭花が幸せな家庭を築いて自立することは、「惨めで無防備な蘭花」と「彼女を支配する頼もしい私」という依存関係の崩壊を意味していました。蘭花が誰かの妻になり、手の届かない場所へ去ってしまうことに耐えられない留利絵は、恐るべき企てに手を染めます。
留利絵は、蘭花の婚約者の職場や関係者に対し、かつて蘭花が茂実と過激な不倫関係にあり、中絶を経験しているという過去を匿名でリークし、蘭花の新たな幸せを徹底的に妨害しようと画策します。さらに、蘭花に対しても「あなたには私しかいない」「あの男もどうせ茂実と同じようにあなたを裏切る」と囁きかけ、蘭花の精神を再び孤立無援の暗闇へと突き落とそうとします。
ラストシーンで突きつけられる真相は、茂実の暴力的な男尊女卑よりも遥かに底知れない、留利絵の「善意の顔をした悪意」です。蘭花が茂実に盲目的な恋をしていたように、留利絵もまた蘭花に対して盲目的な友情――という名の支配欲に囚われていたのです。物語は、救いようのない共依存の檻に閉じ込められた二人の関係性を冷徹に映し出したまま幕を下ろします。