これまで登山者や近隣住民の間で「神話」のように信じられてきた「熊鈴や大声で音を立てて存在を知らせる」という回避行動。しかし、すでに人間や人里の食べ物の味を覚えた個体に対して大声を張り上げる行為は、威嚇と受け取られて激昂させるか、逆に獲物の居場所を教えるシグナルになりかねない。至近距離で遭遇した際の大声や大袈裟なジェスチャーは、もっとも危険な致命的NG行動の一つだ。
目の前に突如現れた際、生死を分けるのは「動揺を隠し、背中を見せずに距離を取る」という冷徹なまでの冷静さである。絶対にやってはならないのが慌てて背を向けて走って逃げること。逃走する動体を反射的に追跡する捕食者本能を刺激し、時速50キロメートルを超える猛スピードで背後から襲いかかられる。目線を外さず、地面を這うようにゆっくりと後退するのが鉄則だ。
万が一、襲撃を回避できず突進された場合の最終手段は「うつ伏せ防御姿勢」に尽きる。地面に突っ伏して首の後ろで両手を組み、首頸脈と頭部、腹部を物理的にガードする。バックパックを背負っていれば、それが致命傷を防ぐ強固な盾となる。顔面や喉元への一撃を防ぐ姿勢を取ることで、生存率は跳ね上がる。