数あるテレビCMの中で、なぜキンチョールのCMだけが半世紀以上にもわたって「一度見たら忘れられない」と言われ続けるのでしょうか。その背景には、広告制作における明確な哲学と、金鳥CM演出裏話として語り継がれる現場のルールが存在します。
制作を牽引してきたクリエイティブチーム(堀井博次氏をはじめとする関西の伝説的プランナー陣)が徹底したのは、「商品の機能ばかりを叫ぶCMは、視聴者の心を閉ざす」という逆説的な真理でした。あえてセールストークを極限まで削ぎ落とし、視聴者をまず笑わせ、脱力させ、「この会社は面白いことをやる」という好意を抱かせる。この戦略的アプローチこそが、キンチョールCM面白すぎる理由の根幹にあります。
関係者の手記や制作秘話によると、現場では徹底的に「予定調和」が排除されていました。リハーサルで面白かった演技であっても、本番で俳優が狙いすぎると即座に撮り直しがかかり、「素の人間がふと漏らしたような違和感」が追求されたといいます。商品の殺虫スプレーを誇らしげに掲げるのではなく、どこか所在なさげに置く、あるいはセリフの途中で視線を泳がせるといった緻密な演出が、見る者の潜在意識に強烈な引っかかりを残す仕掛けとなっていました。