ガクトのキャリアを語る上で欠かせないのが、かつて徹底されていた「生年非公表・架空設定」の時代です。1995年にMALICE MIZER(マリスミゼル)の2代目ボーカルとして頭角を現した当時、バンドの持つ中世ヨーロッパ的な耽美派コンセプトと共鳴するように、生年を「1540年(室町時代末期・天文9年)」と公表していました。
この「400年以上を生きるヴァンパイア(吸血鬼)」という世界観は、単なる思いつきではなく、ソロ独立後もライブ演出やファンクラブの会報などを通じて強固に維持されていました。ファンにとっても「GACKTという虚構と現実の境界に存在する芸術」を楽しむための共通言語として暗黙の了解が成立していたのです。
この鉄壁の設定が解禁されたのは、2009年11月5日に行われた舞台『眠狂四郎無頼控』の製作発表記者会見でした。原作者・柴田錬三郎の生誕を記念した大型舞台で主役に抜擢された際、記者陣の前で堂々と自らの年齢を語り始めました。「眠狂四郎という孤高の剣客と向き合うにあたり、役柄の実年齢である37歳と自分が同い年であることに運命を感じた」と述べ、自ら1973年生まれであることを公式に認めたのです。
神秘性を売りにするトップアーティストが自ら設定を取り払う行為は極めて異例であり、当時のワイドショーやスポーツ新聞各紙は一面トップでこの電撃発表を報じました。虚構を捨てて等身大の表現者として勝負に出るという、覚悟の表れでもありました。