この食説の歴史を紐解くと、科学と誇大宣伝が交錯してきた背景が見えてくる。1931年にノーベル生理学・医学賞を受賞したドイツの生化学者オットー・ワールブルクは、がん細胞が低酸素かつ酸性の環境で繁茂することを発見した。この偉大な業績は後に一部の代替医療者によって歪曲され、「体をアルカリ性に保てばガンは死滅する」という過激な理論へとすり替えられていく。
その極端な例が、著書『pH Miracle』で世界的なブームを巻き起こしたロバート・ヤングの存在だ。彼はアルカリ性ダイエットこそがあらゆる病を治すと主張し、世界的な支持を集めた。しかし、無資格での違法な医療行為や患者への危険な介入が発覚し、後に重い刑事罰を受けることとなった。予防医学や食事療法を研究する現代の知見は、こうした劇薬のような極論を切り捨て、科学的根拠に基づいた適切な栄養バランスへの回帰を促している。