昭和歌謡史を語る上で欠かせないトピックの一つが、1983年から1984年にかけて発生した『秋冬』の競作現象です。この楽曲のルーツは、36歳の若さで病没したシンガーソングライター・中山丈二氏の遺作にありました。彼が生前に吹き込んでいた一本のカセットテープが関係者の心を揺さぶり、有線放送やスナックなどを通じて静かに、しかし確実に広がっていったのです。
当時、楽曲の持つ強い哀愁と普遍的なメロディに魅了された複数の音楽プロデューサーがほぼ同時にレコード化へ動いたことが、高田みづえをはじめとする異例の競作となった理由でした。原大輔、高田みづえ、三保敬太郎、LOLETHA(ロリーサ)など、各社から異なるアプローチで競い合うようにリリースされるという、現代の音楽市場では考えられないムーブメントが巻き起こりました。
高田みづえ版の発売日は1984年1月1日。お正月のリリースとともにオリコンチャートを急上昇し、有線リクエストでも上位を独占。原曲の切なさを女性目線の情念へと昇華させた彼女のシングルは、競作盤の中で最大の存在感を放つことになります。