専門クリニックや総合病院のカルテには、病状を軽く見積もった結果として深刻な健康被害に陥った患者の記録が刻まれています。自著や闘病手記を公開している当事者の言葉からは、周囲に理解されにくい疾患特有の苦痛と、焦りが生み出す悲痛な実態が浮かび上がります。
大手SNSや知恵袋等のコミュニティにおいて、最も多く共有されている失敗談が「薬が効いて体が軽くなった瞬間の油断」です。ある30代女性は手記のなかで、次のように生々しい後悔を綴っています。
「メルカゾールを飲み始めて1ヶ月ほどで、あんなに苦しかった動悸が嘘のように引いていきました。だるさが消えたのが嬉しくて、『もう治ったんだ』と勝手に思い込み、医師に相談せず薬を間引き、溜まっていた残業を再開してジム通いまで復活させました。そのわずか2週間後、突然深夜に40度近い高熱と激しい胸の痛みに襲われ、救急車で運ばれました。診断は甲状腺機能の急激なリバウンドと重症感染症一歩手前の状態。医師からは『命を落としかけたんだよ』と厳しく叱責され、血の気が引きました」
特に注視すべきは、抗甲状腺薬(チアマゾール/商品名メルカゾール、またはプロピルチオウラシル/商品名チウラジール・プロパジール)を服用開始した初期(主に服用開始後2週間から3ヶ月以内)に生じる「無顆粒球症」の存在です。白血球中の好中球が極端に減少し、細菌に対する抵抗力を完全に失う重篤な副作用で、発現率は約0.1〜0.5%と低いものの、対応が遅れれば敗血症から死に至ります。
「風邪だろう」と自己判断して市販の解熱鎮痛剤でやり過ごそうとすることは、絶対にやってはいけない行動の最たる例です。38度以上の発熱や強い喉の痛みが生じた場合は、夜間であっても薬の服用を直ちに中止し、緊急で主治医または救急外来を受診して白血球数を測定する必要があります。この防衛行動を怠ることが、最大の医療事故リスクとなります。