熱があるときのお風呂には効果とリスクの双方が表裏一体で存在します。これらを科学的に理解することが、誤った判断を防ぐ鍵となります。
まず、適切なタイミングで熱がある時にお風呂で汗を流すメリットとして挙げられるのは、皮膚の衛生保持と呼吸器への加湿効果です。発熱によって分泌された多量の皮脂や汗を放置すると、皮膚の常在菌が繁殖して痒みや皮膚炎を誘発します。また、適度な湿気を含んだ浴室の空気を吸い込むことで、乾燥した喉や鼻の粘膜が潤い、線毛運動が活性化してウイルスや痰の排出がスムーズになるという副次的な利点もあります。
しかし、それ以上に警戒しなければならないのが、熱がある時にお風呂の湯船に浸かることで病状が悪化する理由です。入浴医学において、40℃のお湯に10分間浸かる行為は、時速4km前後のウォーキングを20〜30分間連続して行うのと同等のエネルギー(約50〜80kcal)を消費するとされています。健康な状態であれば心地よい疲労感で済みますが、ウイルスと戦うために身体の全エネルギーを動員している発熱時にこの負荷が加わると、免疫系へのエネルギー供給が滞り、回復が大幅に遅れてしまいます。
さらに深刻なのが「うつ熱(体内に熱がこもり放熱できなくなる現象)」と「脱水」の連鎖です。発熱時は体温調節中枢が狂っており、自力での放熱コントロールが鈍くなっています。熱い湯船に浸かると体温が外部から強制的に上昇させられ、体温計が39℃や40℃へと跳ね上がる危険があります。加えて、発熱時は自覚がないまま皮膚や呼気から水分が失われる「不感蒸泄」が通常の1.5〜2倍に増加しているため、入浴によって発汗が促進されると急激な脱水状態に陥り、血液の粘度が高まって血管事故や失神(浴室熱中症)を引き起こす引き金になりかねません。