あおさの味噌汁を作る際、最も犯しやすい過ちが「具材として鍋に入れて味噌と一緒に煮立たせる」という行為です。結論から言えば、あおさの味噌汁を入れるタイミングは「火を止めて味噌を溶き入れた直後」、あるいは「お椀にあおさを直前に入れ、熱い味噌汁を上から注ぐ」のどちらかでなければなりません。
これには明確な食品生化学的根拠が存在します。あおさ特有の清々しく力強い磯の芳香を構成している主成分は、主に「ジメチルスルフィド」と呼ばれる揮発性硫黄化合物です。この成分は熱に対して極めてデリケートで、沸騰状態(100℃前後)の液体中で加熱を続けると、わずか数十秒で大気中に揮散してしまいます。さらに、緑色の色素であるクロロフィル(葉緑素)が高熱で酸化・変性し、鮮やかな翡翠色から褪せた褐色へと劣化してしまうのです。
大手レシピ動画サービスの「クラシル」が紹介する基本レシピでも、あおさは煮込む必要が一切なく、熱い汁に浸すだけで即座に戻る特性が強調されています。また、四万十川の海藻を扱う専門店の料理帖においても「香りを閉じ込めるためには最後の最後に合わせる」ことが最大の秘訣として記されています。鍋の中でグラグラと煮立てる行為は、自ら香りを蒸発させ、舌触りを損なわせる結果にしかなりません。