この事故で最も世間に衝撃を与え、多くの議論を呼んだのが「焼き尽くされた153台の車両に対する被害補償」の帰趨です。大切な愛車を突如として失った利用客に対して、マルハン側や火元車両の所有者が全額弁済してくれるものと信じていた人々は、法的な現実を突きつけられることになりました。
結論から言えば、日本の現行法において店舗側(マルハン)に法的な損害賠償責任は原則として発生しませんでした。これには2つの決定的な法的ハードルが存在します。
第1に、明治32年に制定された「失火責任法(失火ノ責任ニ関スル法律)」の存在です。この法律により、火災を起こした者(失火者)に対して民法709条の不法行為責任を追及するためには「重大な過失(重過失)」の立証が必須とされています。火元車両の所有者についても、整備不良を放置して意図的に運行していたような異常事態が証明されない限り、通常の失火として過失相殺や巨額賠償の免責対象となります。もちろん、失火元ですらない店舗側が責任を負う筋合いは法郭上ありません。
第2に、「駐車場利用規約における免責条項」です。マルハン厚木北店の駐車場入口や場内看板には「当駐車場内における事故・盗難・火災等につきましては、管理者の責に帰すべき事由がある場合を除き一切の責任を負いません」という標準的な利用規約が明記されていました。消防設備点検を適法に実施していた店舗側に管理上の過失を問うことは不可能に近かったのです。