多くの博物館や美術館が一般料金として1,000円〜2,000円前後の入館料を設定するなか、公益財団法人目黒寄生虫館は創設以来、一貫して「入館料無料(寄付歓迎)」の看板を掲げています。物価高騰が続く2026年現在もその基本姿勢は揺らいでいません。なぜ公立ではなく私立の専門博物館が、一切の入場料を徴収せずに運営を続けられるのでしょうか。
その根底には、1953年に当館を創設した医学博士・亀谷了(かめがい さとる)氏の強烈な信念があります。終戦直後の日本は衛生環境が極めて悪く、国民の多くが回虫などの寄生虫被害に苦しんでいました。医師として臨床と研究の最前線に立っていた亀谷博士は、「寄生虫の正しい知識を一般に広く啓発し、予防と撲滅に役立ててほしい」と願い、自らの私財を惜しみなく投じて私設の研究施設を立ち上げました。教育と学術普及のハードルを極限まで下げるため、「誰でもいつでも学べるように」と無料公開を決断したのです。
現在、運営母体は公益財団法人となっており、国や東京都からの定常的な公的補助金に頼っているわけではありません。運営を支える柱は、創設者が遺した基金の運用益、熱意ある個人や企業からの寄付金、そして館内ショップやオンラインで販売されるユニークなオリジナルグッズの収益です。1階と2階のフロアには寄付を募る募金箱が設置されており、見学を終えた来館者が「これだけの知見を無料で得られた対価」として数百円から数千円を自発的に投じる姿が日常的な光景となっています。入場料という強制的な対価ではなく、利用者の共感と知的好奇心に委託するサステナブルな循環が、無料維持の原動力です。