「長調=明るい・楽しい」「短調=暗い・悲しい」という心理的知覚は、単なる主観的な思い込みではなく、物理学(音響学)と脳の認知プロセスの両面から裏付けられています。
音響物理学における「自然倍音列(Harmonic Series)」の観点から見ると、ある基音を鳴らした際、自然界の物理現象として基音の周波数の整数倍(2倍、3倍、4倍、5倍…)の倍音が微弱に鳴り響いています。ピアノの「ド」を鳴らした際、真っ先に現れる第5倍音は長3度にあたる「ミ」の周波数成分です。つまり、長調の響き(メジャートライアド)は自然界の物理構造そのものに完全に調和しているため、脳はそれを「自然で濁りがなく、安定した心地よい響き(=明るい印象)」として処理します。
対照的に、短3度(ドに対するミ♭など)の音は、自然倍音列の低次倍音の中には存在しません。基音と短3度の周波数比(小整数比から外れる複雑な比率)は、脳の聴覚野において微細な音響的緊張(ゆらぎ・干渉)として知覚されます。この物理的な緊張感や不完全さが、人間の感情処理において「憂い」「切なさ」「緊張」といった情緒的ニュアンスへと翻訳される仕組みです。
さらに音楽社会学の研究が示す通り、西洋古典音楽から現代の映画音楽に至るまで、「短調=喪失や哀愁を描く文脈」で数百年間にわたり体系的に使用され続けてきた文化的な学習効果も、この心理作用を強力に補強しています。