ネットのオカルトコミュニティで囁かれる「うろんの母」の正体について、発端となった投稿やログを追跡すると、ある共通した不気味なモチーフが浮かび上がります。それは「外見は自分の見知った母親そのものだが、ふとした拍子に絶対にあってはならない言動や異様な身体反応を見せるナニカ」という構図です。
物語の典型的なプロットでは、語り手の少年少女が自宅で過ごす日常から始まります。夕食の支度をする母、居間でテレビを眺める母。しかし、語り手は次第に耐えがたい違和感を抱き始めます。いつもと違う包丁の叩きつけ方、焦点の定まらない瞳、あるいは誰もいない仏間に向かって延々と繰り返される無音の会話。耐えかねた子供が「お母さん、何してるの?」と呼びかけた瞬間、首だけが通常の人体ではあり得ない角度で回り、耳慣れない濁った声で返答されるという戦慄の展開へと雪崩れ込みます。
2020年代半ばから急増したモキュメンタリー(擬似ドキュメンタリー)ホラーやフェイクドキュメンタリーの潮流を受け、ネット上では「昭和末期に地方で起きた未解決の失踪事件が関係しているのではないか」「あるカルト的な民間信仰の手記が流出したものではないか」といった推測が飛び交いました。しかし、複数の怪談蒐集家やネットロア調査班の検証によれば、特定の単一事件を直接記録した報道記録は存在しません。民俗学的な「憑き物筋」の伝承と、思春期特有の「親への異化感覚」が巧妙に融合した、極めて純度の高い現代怪談と位置づけるのが妥当です。