Googleなどの検索エンジンで「ニュー阿寒ホテル」と入力した際、サジェスト候補に「心霊」「幽霊」「事故 経緯」といった不吉な単語が表示され、身構えてしまうユーザーは少なくありません。しかし、警察記録、報道各社の過去アーカイブ、地元自治体の記録を詳細に調査した結果、同ホテルにおいて社会的な事件や心霊現象を裏付ける公式な事実は一切存在しません。
では、なぜこのような怪談めいた噂がインターネット上で独り歩きしてしまったのか。そこには、大型温泉旅館が持つ特有の空間構造と、人間の恐怖心理が引き起こす認知の歪みが関係しています。
第一の要因は、「昭和の巨大建築が生み出す陰影」です。ニュー阿寒ホテルは客室数数百室を誇る長大な建物であり、シャングリラ館とクリスタル館を繋ぐ長い渡り廊下や、深夜の静まり返ったフロアの奥行きは、現代のコンパクトなビジネスホテルに慣れた世代にとって非日常的かつ独特の威圧感を覚えさせます。夜間の暖色系間接照明や風による建具の微小な軋み音が、過敏になった宿泊客の心理に「何かいるのではないか」という錯覚を誘発しやすい環境を作り出していました。
第二の要因は、ネット掲示板やオカルト系まとめサイトによる情報の混同と伝言ゲームです。北海道内の他の廃墟ホテルや、かつて道内の別地域で発生した宿泊施設火災・事故の記憶が、無関係なニュー阿寒ホテルの名称と意図的あるいは無意識に結びつけられ、5ちゃんねる(旧2ch)や知恵袋などで拡散された経緯が確認されています。実態としての不審死や忌まわしい事故歴はなく、根拠なき都市伝説がデジタル空間のアルゴリズムによって増幅された典型例といえます。