額装の現場において、展示品の落下事故調査を行うと、壁側のフック破損以上に「額縁側の紐がほどけて抜けていた」というケースが頻発しています。一般的な蝶結びや適当な固結び(縦結び)は、静止状態では固定されているように見えても、人間が歩く際の床振動やドアの開閉による微細な揺れで、結び目同士の摩擦が徐々に解けていく力学的弱点を持っています。
特に油彩額や大型のフォトフレーム、前面にアクリルではなく重いガラスを採用している額縁の場合、紐にかかる下向きの荷重は額縁本体の重量の数倍に跳ね上がります。紐の結び目が緩んで長さにズレが生じると、額縁が斜めに傾くだけでなく、片側の吊り金具に極端な偏荷重がかかり、ビス抜けや金具の破損を誘発する構造的リスクを生みます。
「飾ってから数か月後に突然落ちて割れた」というトラブルの多くは、設置直後の問題ではなく、時間をかけて自己流の結び目がすっぽ抜けた結果です。作品の価値を守り、同居する家族やペットの安全を確保するためにも、緩まない結び方の習得は必須の教養といえます。