伊之助が被っている猪の頭皮は、彼を拾って育ててくれた「母猪」の形見ですが、人間の実母である琴葉との別れはあまりに過酷なものでした。
幼い伊之助を連れた琴葉は、夫や姑の家庭内暴力から逃げ延びた末、万世極楽教の教祖であった上弦の弐・童磨の寺院に保護されました。童磨は琴葉の美しさと純粋さを気に入り、殺さずに天寿を全うさせるつもりでしたが、琴葉は童磨が信者を喰らっている現場を目撃してしまいます。
逃げ場を失い、断崖絶壁へと追い詰められた琴葉は、胸に抱いた幼い伊之助を助けるため、涙を流しながら彼を谷底の川へと落としました。「ごめんね、伊之助…守ってあげられなくてごめんね…でも生きて、どうか生きて!」という母の決死の祈りが、奇跡的に伊之助の命を繋いだのです。
無限城編において、童磨と対峙した伊之助は、童磨の口から母の最期の真実を聞かされます。「お前の母親は頭が悪くてね」「最後は俺が綺麗に食べてあげたよ」という嘲笑に対し、伊之助は激しい怒りを爆発させます。母の愛情を知らずに育ったと思い込んでいた彼が、実は誰よりも深く、命を賭して愛されていた事実を知り、栗花落カナヲと共に童磨を討ち果たす展開は、作品全体を通じても指折りの涙腺崩壊シーンとして語り継がれています。