クラシック界とポップス界の間には、一見すると見えにくい深い溝が存在します。クラシックでは楽譜に忠実な再現性と伝統的な響きの均一性が求められるのに対し、ポップスやロックの現場では「個人の記名性(だれの音かひと耳でわかること)」や「タイム感の柔軟性」が最優先されます。
ネット上の評論では時に「音大首席のエリートだから現場でも引く手あまたなのは当然」と片付けられがちですが、これは明らかな誤認です。実際には、クラシックの教育を極めた奏者ほど、ポップス特有のレイドバックしたグルーヴや歪み(歪曲)を伴うサブトーンの習得に苦心し、ジャンルの壁を越えられずに挫折するケースが少なくありません。
中村有里の歩みにおける最大の特異点は、音大卒業直後からインストゥルメンタルユニット「Fabrhyme(ファブライム)」の結成などを通じて、ストリートやライブハウスの現場で「生きたグルーヴ」を能動的に吸収し続けた点です。伝統的な演奏法を解体し、商業音楽のコード感に合わせて自己の音色を再構築する作業は、想像を絶する試行錯誤を要したはずです。ネット上の表面的な学歴表記だけでは見えてこない、泥臭いまでの現場主義こそが彼女の真の強みです。