作中において、地獄のチューナー・北見淳が組み上げた悪魔のZの心臓部は、日産の直列6気筒名機「L28型」をボア・ストロークアップによって3.1リッターまで拡大し、ツインターボで過給した「L28改 3.1L ツインターボ」です。設定上のスペックは、最高出力600馬力以上、最大トルク80kgm級、最高速度300km/hオーバーとされています。
現代の感覚では「600馬力」という数値は最新スーパースポーツでも珍しくありません。しかし、車重がわずか1,000kg前後に過ぎず、トラクションコントロールやABSはおろかパワーステアリングすら備わっていない1970年代のS30Zに600馬力を注ぎ込むことは、工学的には「制御不能な走る凶器」を作り出すことに等しい試みでした。
当時のチューニング事情を振り返ると、TRUSTのTD06ツインターボやキャブレターターボ(のちに電子制御インジェクションへ進化)を組み合わせ、ブースト圧1.5kg/cm²以上を掛けることで600馬力を絞り出すことは技術的に可能でした。しかし、薄い鋼板で作られたS30Zのモノコックボディは過大なトルクによって激しく捩れ、フロントのリフト(浮き上がり)現象によってステアリングの手応えが消えるなど、ドライバーには常に死と隣り合わせの精密なマシンコントロールが求められたのです。