1991年2月、朝日出版社から刊行された樋口可南子さんの写真集『Water Fruit』は、発売と同時に全国の書店へ注文が殺到し、社会現象と呼ぶにふさわしい大旋風を巻き起こしました。当時、日本の出版倫理規定では極めて厳格な自主規制が敷かれており、陰毛が写り込んだ写真の掲載は刑法175条(わいせつ物頒布等の罪)に抵触する恐れがあるとして、事実上の完全なタブーと見なされていたためです。
しかし、名匠・篠山紀信氏がサンタフェの広大な大自然を舞台に切り取った本作は、猥雑さを一切排除した瑞々しい光と肉体美の結晶でした。「隠すことそのものが不自然である」という写真家の強い意図と、被写体となった樋口可南子さんの覚悟が合致した結果、当局も摘発を見送る異例の展開となり、表現の自由の境界線を劇的に押し広げる歴史的契機となったのです。
当時の報道各社や文芸誌の批評でも、「これは単なるスキャンダルではなく、日本の写真表現が真のモダニズムを獲得した瞬間である」と絶賛され、女性読者層からも圧倒的な支持を獲得。雑誌メディアを中心に「ヘアヌード」という言葉が一気に流行語として定着していきました。