文藝春秋の手によって世に出た一冊の小説は、出版業界の枠組みを軽々と飛び越え、いまやアジアや欧米をはじめとする海外翻訳市場でも熱い支持を獲得しつつある。震災というローカルな悲劇を出発点としながらも、描かれているのは普遍的な愛と喪失、そして魂の彷徨だからだ。
重厚なヒューマンドラマとして成立している本作は、若年層から往年の文学ファンまで幅広い世代を惹きつけてやまない。SNS全盛の現代において、どこか断絶され、希薄になりがちな人間同士の絆。言葉を持たない多聞が媒介となることで、不器用な大人たちがほんの一瞬だけ取り戻す「生きる手応え」が、孤独を抱える現代人の心にダイレクトに刺さるのである。