東洋の碩学として知られる白川静の漢字学に目を向けると、「秋」という字の背景には古代の人々の切実な祈りが隠されている。一般的な漢字学習辞書を開くと、「秋」は稲穂を象った「禾部(かぶ・のぎへん)」に属しているが、白川の古代文字研究によれば、もともと「秋」の文字にはバッタやイナゴなどの害虫の姿が刻まれていた。
実った穀物を食い荒らす害虫を火で焼き払い、神に豊作を祈願した儀礼から「禾」と「火」の組み合わせが生まれたという。筆先を動かす際、穀物が実る左の禾部をシャープに引き締め、右の火で広がりを持たせる筆順のリズムには、自然の脅威と実りへの感謝という古代の記憶が息づいている。