大規模な地震が観測される直後、X(旧Twitter)や各種まとめサイトのトレンドに突如として浮上するキーワードが「探査船ちきゅう 人工地震の噂の真相」にまつわる陰謀論です。東日本大震災(2011年)や熊本地震(2016年)、能登半島地震(2024年)といった未曾有の災害が起きるたび、「ちきゅうが周辺海域で掘削作業を行っていた」「地震兵器の実験ではないか」といった書き込みが数千件規模でリポストされる現象が繰り返されてきました。
この疑惑が拡散した経緯を辿ると、過去に実施された「人工地震探査(制御震源探査)」という学術用語の意図的な切り取りと曲解に行き当たります。研究機関が地下構造を把握するために行う地震波探査では、海中でエアガンを炸裂させて微小な音波(人工的な震動波)を発生させ、その反射を観測して地層断面を画像化します。この極めて微弱な物理探査の専門用語を、オカルト系インフルエンサーや陰謀論発信者が「人工的に大地震を引き起こす実験」と意図的に混同させ、不安に駆られた一般ユーザーが拡散したのが発端です。
物理科学の観点からこの疑惑を検証すると、その荒唐無稽さは明白です。マグニチュード8〜9クラスのプレート境界型巨大地震が放出するエネルギーは、広島型原爆数千個分から数万個分に匹敵します。一方、探査船「ちきゅう」が海底に穿つ穴の直径はわずか数十センチメートルに過ぎません。地球規模のプレートテクトニクスが蓄積した途方もない歪みエネルギーに対して、直径数十センチのドリルパイプを差し込む行為は、巨大なダムの堤防に極細の針を刺すことすら下回る微小な物理的干渉です。JAMSTEC関係者や地球物理学者からも「ドリルによる掘削でプレート全体を破壊するような大地震を誘発することは物理法則上あり得ない」と明確に否定されています。