なぜクリムトの金は、これほどまでに観る者の心を奪うのか。その秘密は、彼が旅したラヴェンナのビザンティン・モザイクや、琳派をはじめとする日本の伝統美術に対する深い敬意と研究にある。ただ豪華絢爛なだけではない。平面的かつ幾何学的な装飾文様の中に、生々しく柔らかな人肌の質感を閉じ込めているのだ。
従来の西洋絵画が重んじた遠近法を果敢に解体し、象徴主義の思想を宿した独自の黄金様式。それは工芸と純粋絵画の境界を軽やかに飛び越える試みでもあった。同時代に花開いたアール・ヌーヴォーのうねりと共鳴しながら、クリムトは人間の生と死、愛と孤独のドラマを黄金の薄膜の上に焼き付けた。