中沢けい氏の鮮烈な処女小説を安藤尋監督が映画化した『海を感じる時』(2014年)。市川由衣が演じた主人公・恵美子は、愛を求めながらも体だけの関係に溺れていく多感な少女でした。本作で彼女が見せたヌードや生々しい濡れ場シーンは、従来の「元トップアイドル女優」というパブリックイメージを根底から覆すものでした。
当時20代後半を迎えていた市川由衣は、オファーを受けた際の心境について、当時の映画公開特番インタビューなどで「この役から逃げたら一生後悔する」「これで女優としてダメになるなら辞めてもいいという覚悟だった」と語っています。10代から芸能界の第一線で活躍し、順風満帆に見えたキャリアの裏で、彼女は「求められる清純派像」と「表現者としてのリアリティ」のギャップに激しく葛藤していました。その壁を打ち破るための乾坤一擲の選択が、恵美子という役柄への完全な没入だったのです。