現代人は「え」も「ゑ」も同じ母音[e]として認識しがちですが、文字が生まれた当初は決定的な発音の違いが存在していました。五十音図におけるワ行の「え」こそが「ゑ」であり、かつては明確に口唇をすぼめて発声する半母音を伴う「we(ウェ)」という音だったのです。
古代の日本語における発音の差異を整理すると、以下の明確な棲み分けがありました。
・ア行の「え」:純粋な母音である[e]
・ヤ行の「え」:古代から平安期にかけて[ye(イェ)]として存在した音
・ワ行の「ゑ」:唇を丸めて発音する[we(ウェ)]
ところが平安時代の中期から後期にかけて、日本語の音韻体系は大きな転換期を迎えます。「ye」と「e」が混ざり合い、さらには鎌倉時代から室町時代にかけて「we」の唇を丸める動きが次第に薄れ、最終的にすべて[e]の発音へと一本化されていきました。つまり、音としては中世の段階ですでに「え」と「ゑ」の違いが消失していたのです。