古くから心身医学の領域では、特定の疾患に罹患しやすい性格傾向(心身症的性格)が研究されてきました。バセドウ病に関しても、臨床医の間で「几帳面で義務感が強く、周囲への配慮を怠らない完璧主義者」に患者が多いという印象が語られる場面は少なくありません。いわゆるバセドウ病の真面目な人の特徴として語られる気質は、医学的にどのように位置づけられているのでしょうか。
日本甲状腺学会をはじめとする専門学会の知見を総合すると、甲状腺機能亢進症の原因は性格という精神的要素そのものではなく、免疫系が自身の甲状腺を標的として攻撃してしまう「自己免疫疾患」に分類されます。甲状腺を刺激し続ける異常な抗体(抗TSHレセプター抗体=TRAbやTSAb)が体内で産生されることが疾患の本質であり、性格が悪いから、あるいは心が弱いから発症するという言説は完全な医学的誤解です。
では、なぜ「真面目な人」に患者が目立つのか。その接点となるのがバセドウ病とストレスの関係です。真面目で責任感の強い人は、困難な状況に直面した際に「自分が我慢すれば丸く収まる」「弱音を吐いてはならない」と負荷を一身に背負い込み、身体のアラートを無視して過労状態に陥る傾向が顕著です。近年の精神神経免疫学の研究では、長期間にわたる過剰なコルチゾール(ストレスホルモン)の分泌が免疫監視機構のバランスを乱し、自己抗体の産生を抑制できなくなる機序が解明されつつあります。性格そのものが病原体なのではなく、「過度なストレスから逃げられない行動様式」が潜在的な病態を表面化させる触媒として機能しているのが真相です。