竹久夢二の『黒船屋』のモデルを務めたのは、当時15歳で夢二の前に現れた「お葉(本名:佐々木カネヨ)」です。東京美術学校のモデルも務めていたお葉は、抜群のプロポーションと憂いを含んだ美貌を持ち、打ちひしがれていた夢二の新たなミューズとなりました。
しかし、名画のカンバスに定着された女性像はお葉の姿を借りつつも、夢二の胸の内で燃え続けていた笠井彦乃への思慕が色濃く二重写しになっています。現実の肉体としてのお葉の妖艶さと、精神的な純愛の対象であった彦乃の面影が奇跡的なバランスで融合したからこそ、『黒船屋』は夢二の美人画の究極形へと昇華したのです。