那須烏山市の奥深さは、戦国時代の動乱と昭和の近代史が幾重にも重なり合っている点にあります。市街地の北西にそびえる八高山に築かれた烏山城跡は、那須氏約160年間の居城として知られる国指定史跡です。別名「吹墨城」とも呼ばれ、幾重にも張り巡らされた空堀、堅固な土塁、そして山城としては珍しい重厚な石垣の遺構が現在も極めて良好な状態で残されています。実際に城跡の登城路を歩くと、中世の山城特有の緊張感ある空間設計が体感でき、歴史愛好家からの評価が非常に高いスポットです。
一方、近代の遺構を極上のエンターテインメントと産業に昇華させた事例として全国的に名高いのが、嘉永2年(1849年)創業の老舗蔵元が手がける島崎酒造 どうくつ酒蔵です。この施設はもともと、第二次世界大戦末期に旧陸軍の戦車を製造するために山腹へ掘削された巨大な地下工場跡でした。終戦によって未完のまま遺された全長約600メートルの地下空間は、年間を通じて気温が約10℃前後に保たれる天然の冷蔵庫です。
島崎酒造はこの冷涼な環境に着目し、代表銘柄「東力士」などの長期熟成酒を眠らせるセラーとして再生させました。薄暗い坑道に数万本の酒瓶が静かに並ぶ光景は神秘的であり、来訪者向けの見学ツアーも大盛況を博しています。坑内では自分だけの記念酒を最長20年間預けられる「オーナーズボトル」制度も導入されており、家族の節目や将来への投資として申し込む人が後を絶ちません。歴史の陰影を地域の誇るべき観光資源へと転換させた見事なモデルケースといえます。