高級時計の代名詞がなぜお菓子を手掛けるのか。この疑問に対して、ブランド側が掲げる明確な哲学が存在する。フランク ミュラーが標榜するのは、単に時を刻む計測器としての時計(ギリシャ神話における「クロノス=物理的時間」)の提供にとどまらず、人生を豊かに彩るかけがえのない瞬間(「カイロス=主観的・質的な時間」)の創造だ。
ブランドの公式発信資料およびブティック関係者の証言によると、「大切な人とテーブルを囲み、極上のスイーツを口に運ぶひとときは、日々の喧騒を忘れさせる最も濃密な時間である」という思想が根底にある。時計の文字盤でおなじみの独創的な「ビザン数字」が刻まれた優美な世界観を、視覚だけでなく味覚や嗅覚を通じた五感で体感してもらうための空間として、パティスリーという表現形態が選ばれた。
海外の一流メゾンによるカフェやレストランのプロデュース事例は増えているが、本国スイスの承認を得て世界中で日本(GINZA SIX)にしか存在しない単独常設パティスリーを立ち上げた点は極めて異例だ。繊細な日本の食文化と四季折々の素材に対するフランク ミュラーの深い敬意が、この唯一無二のプロジェクトを結実させた最大の要因といえる。