この歴史的なフレーズを生み出したのは、電通(当時)を経て独立し、現在は株式会社照井晶博の代表を務めるコピーライター・照井晶博(てるい あきひろ)氏です。また、CM全体の企画・クリエイティブディレクターは、映画『PERFECT DAYS』のプロデュースや小説家としても知られる高崎卓馬(たかさき たくま)氏が担当しました。
時計の針を2009年後半へと戻します。当時のサッポロ生ビール黒ラベルは、1977年の発売以来の根強いファンを抱えていたものの、「昔ながらのおじさんが飲むビール」というイメージが固定化し、20代〜30代の若い世代のビール離れや他社製品(新ジャンル・発泡酒など)への流出という深刻な課題に直面していました。
専門誌『宣伝会議』や『ブレーン』、ならびに東京コピーライターズクラブ(TCC)の受賞コメント等で語られた当時の制作記録によると、企画チームが最初に立てた問いは「ビールの味や製法(麦芽やホップ)を直接語るのではなく、黒ラベルを飲んでいる人がどんな大人であれば憧れられるか」という一点でした。
照井晶博氏は、数百本に及ぶコピーの束を書き殴る中で、日本の若者が「大人になること」に対して抱いている漠然とした絶望感に着目しました。社会に出れば理不尽に頭を下げ、個性を殺し、丸くなっていくしかないのか。そんな閉塞感に対し、「いや、本当にカッコいい大人は丸くなってなんかいない」という確信を言葉に定着させる作業が続きました。
当時の制作プロセスを振り返るインタビュー手記の中で、照井氏は「『丸くなるな』という前半のフレーズが出た瞬間、その先にある着地点として黒ラベルのラベル中央に輝く『星』が一直線に繋がった」という旨の生の感覚を明かしています。もし後半が「丸くなるな、尖り続けろ。」であれば、単なる若者の反抗的なスローガンで終わっていたはずです。そこに「星になれ。」という詩的かつブランドの象徴そのものである言葉を置いたことで、孤高でありながらも周囲を照らす成熟した大人の哲学へと昇華されたのです。