広く親しまれている「マッドハッター(Mad Hatter)」という呼び名ですが、原作のテキスト内では一貫して「帽子屋(The Hatter)」としか記されていません。マッドハッターの正体を探る上で、彼が固有の名前を持たない nameless な存在である点は文学的にも興味深い事実です。
原作には帽子屋の本名に関する記述はありませんが、2010年のティム・バートン監督による実写映画版では「タラント・ハイトップ(Tarrant Hightopp)」というオリジナルネームが与えられ、話題を呼びました。
また、不思議の国のアリスの帽子屋にはモデルとなった実在の人物が存在します。オックスフォード大学クライスト・チャーチの数学教区員であったキャロルがよく知っていた、近隣の家具職人兼発明家セオフィラス・カーター(Theophilus Carter)です。
カーターは常にシルクハットを被り、人を起こすために目覚まし時計と連動してベッドを傾けて人間を床に落とす「からくり目覚ましベッド」を開発するなど、奇行で知られた変人でした。挿絵画家のジョン・テニエルが描いた帽子屋の風貌も、カーターの特徴的な顎や容姿を意図的に模写したと伝えられています。