ネット上の言説においてしばしば見受けられるのが、「キャスティングにおける事務所のパワーバランス」や「著名人の家族優遇」という安易な陰謀論です。しかし、近年のNHKドラマ制作、とりわけ公共放送としてのコンプライアンスが極めて厳格化された現場においては、そうした旧来の慣習は通用しません。
たとえば菅生新樹に対する「菅田将暉の弟だから優遇された」という言説は、現場のプロセスを見れば明確な誤解であることが分かります。NHKのドラマ制作局はオーディション審査において、演出部、プロデューサー、脚本家がそれぞれ独立した採点シートを提出する厳正なブラインドシステムを導入しています。菅生新樹が選ばれた最大の理由は、昭和・平成の香りを残す「朴訥とした佇まい」と「相手の芝居を受け止める受容力」でした。制作陣が求めていたのは、洗練された都会派イケメンではなく、泥にまみれて白球を追い、恋心を胸の奥にしまい込む九州男児のリアリティであり、その条件に最も合致したのが彼だったのです。
また、橋本環奈に対する「朝ドラヒロインをやるには知名度が高すぎる」という批判的な声もありました。歴代の朝ドラは無名新人の発掘という側面を強く持っていたためです。しかし、制作陣の真の狙いは「平成という激動の時代を明るく突破していく、説得力ある陽のエネルギー」の体現でした。コロナ禍を経て分断や閉塞感が残る社会に対し、圧倒的な前向きさを届けるためには、知名度や経験値を兼ね備えた橋本環奈の存在が不可欠だったという業界構造の必然性がありました。