物質そのものが持つ価値をグラム単位で換算した場合、貴金属や宝石は「世界一高い物質」の足元にも及びません。ナサ(NASA)の公式試算資料および欧州原子核研究機構(CERN)の研究報告によると、科学的に認知されている物質の中で最も高価なものは間違いなく反物質(Antimatter)です。
通常の物質を構成する粒子(陽子や電子)と質量が同じで、電気的な電荷のみが逆の性質を持つ反粒子によって構成される反物質は、理論上1グラムあたり約62.5兆ドル(約9,300兆円)という天文学的価値が算出されています。なぜこれほどの価格が付くのか。その理由は極めて明快で、製造プロセスの極限的な難易度とエネルギー変換効率の悪さにあります。
スイス・ジュネーブ郊外にある大型ハドロン衝突型加速器(LHC)をフル稼働させても、1年間に生成できる反陽子はわずか数十ナノグラム(1ナノグラム=10億分の1グラム)に過ぎません。膨大な電力を消費し、光速近くまで加速させた粒子同士を衝突させて生み出すプロセスには莫大な国家予算が投入されており、仮に1グラムの反物質を人工的に集積しようとすれば、地球全体の発電能力を長期間専有しなければならない計算になります。
さらに、反物質は通常の物質と接触した瞬間に「対消滅」を起こし、質量が100%純粋なエネルギーへと変換されて爆発的な光と熱を放ちます。そのため、物理的な容器に触れさせることなく磁気浮上トラップ(ペニング・トラップ)の中で真空保存し続けなければならず、保管コストだけでも秒単位で膨大な費用が加算されていきます。
物質界において反物質に次ぐ高額物質としては、人工放射性同位元素であるカリフォルニウム252(1グラムあたり約2,700万ドル=約40億円)や、フラーレンの内部に窒素原子を閉じ込めたエンドヘドラルフラーレン(1グラムあたり約1億4,000万ドル=約210億円)が挙げられます。いずれも極限の科学技術と巨大なインフラ投資が要求される点において、自然界が何億年もかけて育んだ鉱物の希少性とは全く異なる次元の価値体系を形成しています。
一方、人類がこれまでに作り上げた単一の人工構造物としてギネス世界記録最高額に君臨するのが世界一高い建造物国際宇宙ステーション(ISS)です。1998年の建設開始から現在までに、アメリカ、ロシア、日本、欧州、カナダなどが投じた開発・運用コストの累計は1,500億ドル(約22.5兆円)を突破しています。地球の軌道上を時速約2万8,000キロメートルで周回するこの巨大研究拠点は、建設資材をロケットで宇宙空間へピストン輸送するという物流コストの頂点を示しています。