ネット上の掲示板やSNSでは、「トゲくらい放っておけば、そのうち体の外に押し出される」という楽観的な言説が散見されます。この主張が一部で事実とされる背景には、人体が備えるトゲが自然に出てくる理由、すなわち皮膚の「ターンオーバー(新陳代謝)」の存在があります。皮膚の最外層である表皮では、基底層で生まれた細胞が約28日から40日ほどかけて角質層へと押し上げられ、最終的に垢となって剥がれ落ちます。もし刺さったトゲが表皮の極めて浅い角質層内に完全に留まっていれば、この新陳代謝の波に乗って自然脱落することは医学的にも説明がつきます。
しかし、この自然排出理論には致命的な盲点が存在します。トゲが基底膜を突き破り、血管や神経が張り巡らされた「真皮層」やその下の「皮下脂肪組織」に達していた場合、ターンオーバーによる排出作用は一切機能しません。それどころか、異物が体内に侵入したことを感知した免疫システムが過剰に反応し、マクロファージや好中球が集結して異物を隔離しようと線維化を進め、「異物肉芽腫(にくげしゅ)」と呼ばれる硬いしこりを形成してしまいます。
さらに危険なのは、刺さった異物の材質です。金属片やガラス片などの無機物と比較して、植物のトゲ、木のささくれ、動物の骨などの有機物は、表面に土壌細菌や真菌が無数に付着しています。密閉された皮下環境は細菌にとって格好の培養土となり、トゲを放置することで化膿や組織の激しい腫れを引き起こし、局所の切開排膿を余儀なくされるケースが臨床現場では頻繁に報告されています。