現在、ヤマハの国内正規販売ラインナップを確認すると、軽二輪(126〜250cc)クラスにおいて公道を走行できるオフロードバイクは1台も存在しません。バイクブロスやグーバイクのカタログデータを参照しても、かつての中核であったカテゴリーが空白のまま放置されている現実に驚くライダーは少なくありません。
この異常事態を引き起こした最大の引き金が、排ガス規制に伴う生産終了の経緯です。日本国内では2020年11月以降、欧州の「EURO5」に相当する「令和2年排出ガス規制」が段階的に全面適用されました。これに加え、二輪車のABS(アンチロックブレーキシステム)搭載義務化や、OBD2(車載式故障診断装置)の搭載要件が課されることとなりました。
この規制強化は、車格が小さく軽量性が命となるオフロードバイクにとって致命的な打撃となりました。空冷単気筒エンジンを搭載していたセロー250の場合、規制をクリアするためには大型の触媒やキャニスター、複雑な電子制御スロットルの導入が不可欠でした。当時のヤマハ開発関係者からは、「補機類を追加して車重が10kg以上重くなり、車体が肥大化して価格が跳ね上がれば、それはもはや誰もが愛したセローではない」という苦渋の決断が語られています。
一方、水冷DOHCエンジンを積み「オフロードのYZF-R1」と称された高性能車WR250Rも、2017年の規制強化時にいち早く生産終了を選択しました。レース用エンジン並みの超高回転設計ゆえに新基準への適合が極めて難しく、採算ラインを維持できないと判断されたためです。軽量・スリム・低価格というオフロードバイクの根幹価値と、年々厳格化する環境・安全規制との衝突こそが、ヤマハの250ccトレールが店頭から姿を消した決定的な構造要因です。