「筋トレと有酸素運動の順番は、どちらが正しいのか」という長年の議論に終止符を打つ決定打は、身体の中で分泌されるホルモン動態とエネルギー代謝の連動メカニズムにあります。運動の順番を決める際は、自身の目的を「体脂肪を削ぎ落とすこと」に置くのか、それとも「筋肥大を成し遂げること」に置くのかで、身体が辿る生化学的ルートがまったく異なります。
体脂肪を落とすダイエットを目的とする場合、生理学的な絶対解は「筋トレを先に行い、その後にランニングを行う」という流れです。高強度の筋トレを実施すると、脳の脳下垂体から成長ホルモンが大量に分泌されます。この成長ホルモンには筋肉の修復を促す働きのほか、中性脂肪を分解して血液中に「遊離脂肪酸」として放出させる強力なリパーゼ活性化作用が存在します。
通常、ランニングなどの有酸素運動を開始してから体脂肪が本格的に燃焼し始めるまでには一定の時間を要しますが、事前に筋トレを挟んでおくことで、走り始めた瞬間から血中の遊離脂肪酸がエネルギー源として効率的に使われます。この「筋トレ後のランニングによる脂肪燃焼効果」の跳ね上がりこそが、シェイプアップを目指す人々が筋トレを先行させるべき最大の科学的根拠です。
一方で、筋肉を大きく逞しく育てたい筋肥大が目的である場合、この優先順位は激変します。ランニングを先に行うと、筋肉の主要なエネルギー源である筋グリコーゲンが大幅に消費され、全身のエネルギーセンサーであるAMPK(アデノシン一リン酸活性化プロテインキナーゼ)が活性化します。このAMPKは、筋肉の合成を指令するシグナル伝達経路「mTOR(エムトア)」の働きをダイレクトに阻害してしまう特性を持っています。筋力アップや筋肥大を狙うトレーニーにとって、長時間の有酸素運動を筋トレの前に行う行為は、ブレーキを踏みながらアクセルを踏み込むような自家中毒現象を引き起こします。