妊娠中に手足口病と診断された、あるいはその疑いがあるとき、最も切迫した懸念は「胎児の奇形や流産につながるのか」という点です。インターネット上では不安を煽るような断片的な噂も散見されますが、国内外の周産期医学における見解は極めて冷静です。
まず、風疹やトキソプラズマ、サイトメガロウイルスのように胎盤を通過して胎児に重篤な先天異常を引き起こす「TORCH症候群」と呼ばれる感染症グループと比べた場合、手足口病の原因ウイルスが胎児に直接的な催奇形性(奇形を引き起こす性質)を持つという明確な医学的エビデンスは存在しません。過去の大規模な疫学調査においても、手足口病に罹患した妊婦から生まれた赤ちゃんの奇形発生率は、非感染の母体から生まれた場合と統計的な有意差がないことが立証されています。
次に流産や死産のリスクについてです。妊娠初期の自然流産率は年齢層にもよりますが全妊娠の約15%前後存在します。手足口病ウイルスそのものが胎盤を攻撃して胎児を死亡させるケースは医学的に極めて稀です。ただし、「ウイルスによる直接障害」ではなく、母体の38.5℃〜39℃を超える持続的な高熱が子宮環境に過度なストレスを与え、子宮収縮を誘発するリスクは考慮しなければなりません。つまり、過剰にパニックを起こす必要はないものの、高熱を放置せず適切に解熱管理を行う姿勢が求められます。