育児現場で最も多く寄せられる相談の一つが、「赤ちゃんの歯が生える順番が教科書と全く違う」という悩みです。一般的な医学書や育児マニュアルでは、生後6ヶ月〜8ヶ月頃に「下の乳中切歯(前歯)2本」から生え始め、続いて生後9ヶ月〜10ヶ月頃に「上の乳中切歯」が生え揃うと説明されます。しかし、臨床の現場では上の前歯から生える理由を求めて来院する保護者が後を絶ちません。
小児歯科医の臨床報告によると、歯の生える順番やスピードは、顎の骨の中で歯の卵である「歯胚(しはい)」が形成される深さや角度、そして歯茎の線維の厚みによって左右されます。上の前歯の歯胚が歯肉の浅い位置に存在していたり、下顎の骨の発達スピードとの兼ね合いで上顎が一時的に優位になったりすると、上の歯が先に顔を出す現象はごく自然に発生します。
また、乳歯の生え始め時期には極めて幅広い乳歯の生え方個人差が存在します。早い赤ちゃんでは生後3〜4ヶ月で歯が生え始める一方、生後10ヶ月を過ぎても歯茎がツルツルのままというケースも日常茶飯事です。骨格の成長や全身の栄養状態、遺伝的要素が複雑に絡み合っており、「順番の逆転」そのものが発育不全や全身疾患を示すケースは極めて例外的です。