「触れ合いを始める前に、勝負はほぼ決まっている」。そう指摘するのは、セックス研究の最前線で高い評価を受ける性科学者エミリー・ナゴスキー博士だ。彼女が提唱する「二重制御モデル(アクセルとブレーキ)」の理論は、多くの人々が陥っている勘違いを鮮やかに突き崩す。
性的興奮を高めるためには、単にアクセル(刺激)を踏み込むだけでは意味がない。それ以上に重要なのは、日常のストレスや不安、自己否定といった「ブレーキ」を解除することだ。仕事のプレッシャーや家庭内の緊張を抱えたままベッドに入っても、脳は警戒態勢を解かない。恋愛心理学の視点からも、パートナーシップにおける心理的安全性こそが、身体の反応を引き出す最大の「アクセル」であることが分かっている。
言葉による労いや、日常生活の中でのさりげない愛情表現。あるいは、何のプレッシャーもない状態で触れ合う無欲なスキンシップ。9割の人が「ベッドの上での技」だと信じ込んでいるものの正体は、実は日中の他愛ない対話や精神的な安らぎの延長線上にしか存在しない。