陸上競技の全種目の中で、スパイクの踵部分に鋭利な金属ピンが配置されているのは走り高跳びとやり投げだけです。短距離走や長距離走のスパイクが前足部(つま先側)での接地を前提に作られているのに対し、走り高跳びの踏切は踵からの強烈なフラット・ヒールストライク接地によって行われます。
カーブ助走によって生じた身体の内傾を保ちながら踏切板(タータン)へ足を突き出す際、スパイクには進行方向への激しい慣性ブレーキが要求されます。この瞬間にシューズがわずかでも横滑りしたりソールがねじれたりすると、助走で作ったエネルギーは外側へ逃げてしまいます。踵ピンがトラックを確実に捉えることで、水平運動エネルギーを上方向へのベクトルへ一瞬で変換する強固な支点が完成します。
日本陸上競技連盟(JAAF)の指導現場やバイオメカニクス研究のデータによると、専用スパイクを履くことで踏切時の足首関節のブレが大幅に軽減され、跳躍高への変換効率が約5〜8%向上すると報告されています。わずか1cmのバーの高さに挑む選手にとって、この機材差が自己ベスト更新の決定打になることは間違いありません。