吉田氏を語る上で欠かせない歴史的資料が、政府事故調査・検証委員会による聴取結果書、いわゆる吉田調書です。事故発生時の生々しい肉声と判断の背景が克明に記録されています。
調書には、原子炉の注水が止まりメルトダウンの危機が迫る中、東京電力本店や官邸との間で交わされた緊迫のやり取りが赤裸々に記されています。とりわけ有名なのが、本店からの「海水注入中断命令」を無視し、独断で現場に注水継続を指示した場面です。この吉田氏の機転と覚悟が、さらなる爆発と破局的被害を食い止める決定打となりました。
一方で、吉田調書を巡っては報道機関による誤報問題も発生しました。一部新聞が「所長の命令に違反して所員の9割が現場を撤退した」と報じたことで現場職員への誤解が広がりましたが、その後に調書全文が公開されたことで、実際には所長の意図通りに「近隣への一時退避」が行われていた真相が証明されました。
調書に遺された「あのときは本当に東日本が壊滅すると思った」「死ぬかもしれないという感覚を何度も味わった」という率直な独白は、極限状態における人間の尊厳とリーダーシップの重みを浮き彫りにしています。