ロームシアター京都の改修史を語る上で避けて通れないのが、建築遺産の保存を巡る激しい議論です。京都会館の設計を手掛けたのは、近代建築の巨匠ル・コルビュジエに師事した建築家・前川國男。打ち放しコンクリートの力強い梁、深い庇(ひさし)、京都の町並みと調和する水平ラインは、1960年の日本建築学会賞を受賞するなど、戦後日本のモダニズム建築の金字塔として世界的に高く評価されていました。
それゆえ、2011年に京都市が発表した改修案――特にメインホールのフライタワーを高さ約31メートルまでかさ上げする計画に対しては、国内外の建築家や日本建築学会、さらにはユネスコの諮問機関であるイコモス(ICOMOS)などから「歴史的建造物の価値と東山を望む景観を損なう」として強い反対運動と計画見直しを求める声明が相次ぎました。
当時の報道各社の取材データによると、議論は「文化財としての完全保存」を求める陣営と、「市民が使える生きた劇場への更新」を掲げる行政・芸術団体側で真っ向から対立しました。最終的には、外観の象徴であるピロティや庇のラインを可能な限り保存・復元し、中庭(ローム・スクエア)を中心とした回遊性を維持しつつ、舞台空間を地下および上方に拡張する妥協案で着工に至ったという複雑な背景が存在します。