驚くべきことに、この現象は人間にも起きています。外見上は何の違和感もないため、本人が一生気づかずに生活しているケースも珍しくありません。世界的な医学界や法曹界に衝撃を与えたヒトキメラの実在例として最も有名なのが、2000年代初頭にアメリカで起きた「リディア・フェアチャイルド事件」です。
生活保護の申請にあたり、リディアさんは子どもたちとの親子関係を証明するためDNA鑑定を受けました。ところが返ってきた鑑定結果は、「子どもたちの生物学的な母親ではない」という信じがたい判定でした。裁判所や捜査当局から子どもを他人の手から奪った誘拐・詐欺の容疑をかけられ、法廷で追い詰められた彼女は、第3子の出産に際して裁判所役員の立ち会いのもとで血液採取を行いました。しかし、生まれたばかりの赤親とリディアさんの血液DNAも一致しませんでした。
弁護側の詳細な医学調査によって導き出されたのが、DNA鑑定キメラの真相でした。リディアさんの体内には、母親の子宮内にいた二卵性双生児の姉妹の受精卵が融合した細胞が残っており、「血液や口内粘膜のDNA」と「子宮や卵巣など生殖器のDNA」が完全に異なっていたのです。卵巣の細胞を採取して再鑑定した結果、見事に親子関係が証明され、彼女の無実は晴らされました。
また、血液型キメラの真相も興味深い事例です。健康診断などで血液型を調べた際、A型とAB型、あるいはO型とB型の赤血球が混在して検出されるケースがあります。二卵性双生児を妊娠した際、胎盤の中で血管同士がつながり(血管吻合)、互いの造血幹細胞が行き来して相手の体内に定着することで、一生涯にわたって2種類の血液型を作り続ける体質になることが分かっています。