鈴木章博士の偉業を語る上で欠かせないのが、自らの発見に対する特許を取得しなかったという驚くべきエピソードだ。通常、これほど広範な産業に応用可能な基本特許であれば、膨大なライセンス収入をもたらしたはずである。
しかし鈴木博士は「大学の研究費は国民の税金で賄われている。その成果は世界中の研究者や企業が自由に使い、人類全体の発展に役立てられるべきだ」という確固たる信念を貫いた。特許権の壁を作らなかったことで、世界中の企業や研究機関が躊躇なくこの技術を採用し、技術革新が爆発的なスピードで伝播した。私利私欲を捨てた研究者の高潔な精神が、結果として地球規模での産業発展を後押ししたのである。