「先生、ありがとうございました。あ、そういえば先月から胸が締め付けられることもあるんですけれど……」。診察室のドアノブに手をかけたその瞬間、患者が思わぬ重大症状を告白する。現場の医師たちが最も頭を抱える典型的なパターンだ。
医療現場ではこれを「ドアノブ現象」と呼ぶ。主訴を聞かれた最初の問診時には「ただの風邪です」と答えながら、診察が終わりかけたタイミングで最も深刻な訴えを小出しにする。本人は「ついでに聞いておこう」程度の軽い気持ちかもしれない。しかし医師側からすれば、それまでの診察組み立てやカルテ記載、予定していた検査計画のすべてを一から白紙に戻さなければならなくなる。最初からすべてを明かさない遠慮や隠蔽は、誤診のリスクを跳ね上げる危険極まりない行為だ。