2018年、お笑い界の勢力図を一変させる事件が起きます。当時、全国ネットの露出がほぼゼロに等しかったトム・ブラウンが、『M-1グランプリ2018』で決勝進出を果たしたのです。準決勝の舞台で彼らが披露した「中島みゆきを何人も集めて、最強の中島みゆきを作る」というネタは、ルミネtheよしもとの空気を完全に破壊し、爆発的な笑いと困惑を巻き起こしました。
決勝当夜、ファーストラウンドで披露されたネタの瞬間視聴率は急上昇。みちおが「キャグッ!」「あがー!」と奇声を上げながら首をかしげ、布川が長い髪を振り乱して「ダメー!」と顔面を強打する制止ツッコミ。既存の漫才の文脈である「起承転結」や「日常の違和感」を根底から覆すパフォーマンスに、審査員席の空気は凍りつき、そして爆笑へと反転しました。
立川志らく氏が「あなたたちを認めたら今までの漫才の歴史が崩れる。でも大笑いしてしまった」と評し、松本人志氏もその中毒性を高く評価。点数こそ633点の6位にとどまり最終決戦には届かなかったものの、SNS上では「トムブラウン」が世界トレンド1位を獲得。放送直後から5ちゃんねるやTwitter(現X)では「狂気の沙汰」「怖すぎて笑う」「脳がバグる」といったワードが氾濫し、一夜にして彼らは全国区の知名度を手にしました。
当時のネットコミュニティの反応を検証すると、放送直後は「お笑いではなく単なる暴力」「生理的に受け付けない」という拒否反応が一定数存在しました。しかし、回を追うごとに「ネタの構造が極めて緻密に計算されている」「布川のツッコミの言葉選びが文学的である」といった再評価が進み、不気味さがクセになるコアなファン層の獲得へと繋がっていったのです。